創業から4年。兼業出版社として
2018年9月からBook&Designというデザイン書の版元を始めて早4年。いまも変わらず、デザイン専門書とアートブックを出版しています。前回の版元日誌を書かせていただいたのは創業時の4年前。1冊目に出版した『うさぎがきいたおと』についてでした。
偶然にも、いままた『うさぎがきいたおと』と同じメンバーで本を作っています。製本会社、美篶堂の上島明子さんが企画した谷川俊太郎さんの詩画集です。上島さんが選んだ谷川さんの詩に、木版画家の沙羅さんの絵をあわせ、美篶堂の職人が手製本で仕上げています。
書体設計士の鳥海修さんが谷川さんのために作った専用仮名書体、朝靄で谷川さんの詩を組版。印刷は、美術展の図録印刷などで定評のある山田写真製版所に依頼。プリンティングディレクター、熊倉桂三さんに木版画の原画からスキャンして画像調整していただき、カレイドインキという高彩度のインキで印刷していただきました。画像調整の立ち合いと印刷の立ち合いで、今夏2回ほど富山に出張。時間と手間をかけて作った一冊です。
『詩画集 目に見えぬ詩集』
詩:谷川俊太郎、木版画:沙羅、編・製本:美篶堂
装幀:守屋史世、協力:鳥海修、本づくり協会
印刷:山田写真製版所
仕様:四六判変型、ドイツ装、56ページ
発行:Book&Designより2022年10月5日発売(トランスビュー扱い)
詳細:https://book-design.jp/
直販サイト:https://bookdesign.theshop.jp/
こちらの写真は、富山の山田写真製版所での画像調整の様子です。木版画の原画とスキャンした画像を比較しながら、熊倉さんに一点ずつ色味を調整していただきました。この部分の彩度をもう少しあげたい、全体的に明るくしつつディテールも出したいなどの細かなリクエストに答えていただき、一日半かけて全画像を調整。印刷立ち合いでは一回でぴったりと色を合わせていただき、最高の仕上がりになりました。
こちらは長野県伊那にある美篶堂の工場で手製本をしているところです。8月の終わりに伺った時にはちょうど表紙の板紙を貼っているところでした。木版画の絵がノドで切れないように、天糊製本という方法で、一冊ずつ手で製本していただいています。仕上がりがきれいすぎて、一見すると手製本に見えないのですが、手間をかけて丁寧に作られています。
これらの本は、大量生産される本ではあり得ない手間と時間をかけて作られています。出版経営的に見れば、原価があまりかからない本を出した方が利益は増えるのですが、もともとこのような造本に凝った本も作るために始めた出版社なので、他の本の利益と合わせてバランスをとっています。用紙代や印刷代が値上がりを続けている現在、既存の出版社はさらに資材のコストカットをしてくると思うので、その流れに逆行しようと思いました。コストをかけても売れるようにするにはどうすればいいのか、を常に考えています。
かといって、常にコストをかけているわけではありません。自社の本では思い切ってコストをかけることもありますが、自著を他社から出版していただいた時には迷惑がかからないよう、できる限りコストを下げつつも、チープに見えない造本設計をしました。
使える印刷予算をあらかじめ教えていただき、その中でやりくりできる紙の候補を挙げ、デザイナーと相談しながら紙を選びました。印刷代の約3割が紙代なので、紙のコストを抑えれば印刷全体のコストを抑えることができます。さらに、カバーと帯は共紙(同じ紙)にして、色数も特色2色に抑えました。
特色には、DICのフランスの伝統色と中国の伝統色を使っており、色を合わせるのが難しいので、長野県松本の藤原印刷までデザイナーと一緒に印刷立ち合いに行きました。何度も色校をとるよりも現場で色を見ながら合わせてしまった方が早いのです。
そうしてできた本がこちらの『ひとり出版入門 つくって売るということ』(よはく舎)です。この本は、自分で本を作って売りたい方のために、出版コードの取り方や書店流通の仕組みなどを解説した実用書です。自分が出版社を作った時に、わからないことが多くて苦労したので、これから出版を始めたいと考えている方のために、必要な情報を本にまとめました。
『ひとり出版入門 つくって売るということ』
著:宮後優子、装幀:守屋史世
印刷:藤原印刷
仕様:四六判、並製、240ページ
発行:よはく舎より2022年9月23日発売
詳細:https://hanmoto.com/bd/isbn/9784910327082
直販サイト:https://yorunoyohaku.com/items/62f4b1145d05ec60781574c4
専門書(デザイン書)の編集をしてきた経験をもとに書いた本なので、別ジャンルの書籍とは違う部分も多々あるかと思います。また、業界の諸先輩方を差しおいて、ひとり版元経験が浅い自分がこのような本を書くのは大変おこがましいのですが、いま困っている方やこれから始めようと考えている方のお役に立てれば幸いです。
ひとり出版を始めて4年経ちましたが、出版専業ではなく、他の仕事もしながら出版もするという兼業スタイルに落ち着きました。現在は、実家の家業、デザイン学校のオンライン授業、他の出版社の仕事、自分の出版社の仕事、4つの仕事をしています。いろいろやっていて大変そうに聞こえますが、この働き方が最も自由でストレスがありません。4つの仕事を自分の事務所でできるので、効率よく働けています。
出版をとりまく環境は年々厳しさを増していますが、複数の仕事のバランスを調整しながら、できるだけ細く長く出版活動を続けていこうと思っています。今後とも末永いお付き合いをよろしくお願いいたします。