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新人はホームレス経験者

▼生涯続く「著者と編集者」の関係
  
版元日誌の執筆は3度目となります。
dZERO(ディーゼロ)は2013年7月、人文系出版社の編集部の一つが独立する形で誕生しました。同年11月から書籍の刊行を開始し、これまでに42点を世に放ってきました。

  
当初は、取次ルート、しかも別の出版社を発売所とする形での出版でしたが、2017年1月から書店との直取引(トランスビューに代行を委託)を開始。その前後、dZEROが存続の危機に陥ったことは前回の日誌に書きました。
  
前回の日誌は2019年6月ですから、それから2年半ほど経ったことになります。この間、いくつかの出来事・変化がありました。
  
(1)第6期(前回日誌)~第8期(2021年6月期)はいずれも単年度黒字に(累損ゼロまであともう少し!)
(2)クラウド会計専門の税理士と契約(すべてオンラインとなり決算が楽に!)
(3)20刷ロングセラー(細谷功『具体と抽象』)を生むことができた(感慨深い!)
(4)新人が加わった(待望!)
(5)生前にお預かりした「日記」を『談志の日記1953 17歳の青春』として刊行(悲願成就!)
  
(1)から(5)までの流れは非常に重要で、黒字となったために好機を逃さず重版することができ(印刷代と紙代の問題)、人件費も確保できたというわけです。新人が入ったことによってこなせる作業量が増えて、長期間の地道な作業を求められた『談志の日記1953 17歳の青春』を出版できました。
 
『談志の日記』は、新人とアルバイト(昭和演芸ファンの30代前半の若者)と私の3人がかりで、半年以上をかけての作業でした。他の書籍の編集もありますし、広報宣伝、経理、在庫管理などの編集外作業もいろいろありますから、新人とアルバイトなくして『談志の日記1953 17歳の青春』の編集作業を全うすることはできなかったでしょう。
  
この日記は「いずれ本になるだろうから」と、談志師匠からお預かりしたものです。体調が思わしくなく、入退院を繰り返していた最晩年のことです。なんとか形にしたいと思い続けてきましたが、dZEROの体力不足で、出版までに10年以上の歳月を要してしまいました。
  
談志師匠が亡くなったのが2011年11月21日ですから、2021年11月は没後10年にあたります。「出版するならこのタイミングしかない」と考えていたときに新人が加わってくれたことは幸運でした。そして無事に、没後10年特別企画として『談志の日記1953 17歳の青春』を刊行することができたのです。
    
社名dZEROのdは、danshiのdです。担当編集者として長くお世話になってきた談志師匠のお名前からちょうだいしています。1997年から談志師匠を担当してきましたが、談志師匠からは落語のことだけでなく、実に多くのことを学びました。所属する出版社が変わっても、転籍先の出版社名を確かめることもなく「どこでもいいや、任せます」の一言で、原稿を預けてくださるような大人物でした。私が新卒で入社した出版社の先輩から、「編集者にとって大事なのは著者だ。別の出版社に移ったとしても、生涯の付き合いになることがある」と教えられましたが、まさにそのとおりとなりました。
  
  
▼公私融合の探偵事務所のように
  
本項のテーマ「新人」に話を戻します。
その新人は30代前半で、過去にホームレス経験があるというツワモノです。そのツワモノぶりを見込んで「dZEROに入らないか」と私から誘ったのでした。敬愛する元ボスに「ホームレス経験があるんですよ」と相談したところ、「いいかもしれん」と賛同してくれたことで気持ちが決まりました。
  
出版界は、高層の自社ビルを有するような大出版社と、自宅の一角に事務所を構えるひとり出版社が同じ土俵で戦うという、大小入り乱れた独特の構造があります。巨人と同じ土俵に残るには、心身のタフネスが必要です。

新人には最初、アルバイトとして働いていましたが、2021年4月からは正式に社員になりました。dZEROは千葉市にあります。最初は都内の自宅から千葉市まで通っていた新人でしたが、入社数か月後に事務所(といっても自宅の一角ですが)から徒歩圏内に転居してくれました。
  
というわけで、現在のdZEROオフィスは公私が混然一体となっています。新人が入ったことで事務所を借りることも考えましたが、固定費は避けたいところです。ホームズもポワロもモンクも、名探偵はみな自宅が事務所で、アシスタントや客もやってきて公私が融合しています。しばらくはそうやって仕事をしていくのもいいかな、と考えています。
  
創業時は「社員3名+アルバイト3名」の総勢6名だったのが、存続の危機に陥った時期に私だけが残って「ひとり出版社」に(同時に都内の事務所を引き払って自宅の一角を事務所に)。そこからおよそ4年かかりましたが、新人が加わり「ふたり出版社」に。正確には、社員2名+アルバイト1名、創業時からのチームであるプログラマー1名とウェブデザイナー1名、これがdZEROを支える現メンバーです。
  
版元日誌の第1回のタイトルは「サバイバーになれるか?」でした。書いたのは、取次経由をやめて直取引に切り替えた直後の2017年10月。あれから4年半、まだ生きています。次に版元日誌の執筆がまわってきたら、新人に書いてもらいましょう。それまでdZEROはサバイバルできるでしょうか、新人はやめずにいるでしょうか。2年先どころか1年先のdZEROも想像がつきませんが、先の見えないワクワク感とでもいうのでしょうか、けっこう楽しみでもあります。

dZEROの本の一覧

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