書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
地方犯罪学
原書: Rural criminoloty
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2026年8月20日
- 書店発売日
- 2026年8月20日
- 登録日
- 2026年6月10日
- 最終更新日
- 2026年8月19日
紹介
地方は本当に牧歌的なのか?
女性に対する虐待や暴力,地方コミュニティと犯罪,ドラッグ犯罪,農業犯罪――都市中心主義の主流派犯罪学が見過ごしてきた地方犯罪の実態とはいかなるものか。批判的視座から地方に関する4つの神話を打破し,地方犯罪研究の新しい道筋を示す。
目次
第1章 地方犯罪――神話と現実
第2章 地方犯罪について批判的に考える
第3章 地方犯罪学に批判的なるものを打ち立てる
第4章 展望と回顧――研究,政策,実践
前書きなど
訳者解題
本書を手に取られた読者の多くは、「地方犯罪学」という言葉を耳にしたことがないかもしれない。それもそのはずである。地方犯罪学は、犯罪学の中でも比較的新しい領域であり、日本ではこれまでほとんど紹介されてこなかった。本書は、そうした状況の中で、この新しい分野を日本の読者に紹介するために翻訳されたものである。
地方犯罪学とは
地方犯罪学がどのような分野であるのかをあらためて本書の内容を踏まえて一言でまとめると、都市中心的なバイアスを有する従来の「主流派犯罪学」に対して、地方で生じる犯罪現象の独自性を主張する分野であるということができる。犯罪学は主として都市で生じる犯罪について、そして都市で得られたデータに基づいてさまざまな理論やモデルを構築してきた。こうした傾向は本書でも繰り返し批判されている社会解体理論やその前身であるシカゴ学派の社会学においても、より現代的な犯罪学理論においても同様である。
地方犯罪学はこうした傾向に対するカウンターとして生じてきたものであり、その根底には、都市の犯罪を説明するために構築された理論が、地方の犯罪を説明する際には必ずしもそのまま妥当するわけではないという認識がある。たとえば、現代的な地方犯罪学の展開において重要な実証研究の一つであるウェルズとワイスハイト(Wells & Weisheit, 2004)の研究を見てみよう。この研究は、社会解体理論に基づいて作成された指標が、アメリカの大都市部と地方部において、それぞれどの程度犯罪を説明できるのかを検討したものである。具体的には、人口の流動性、家庭の不安定性、経済的状況、失業率など、社会解体理論において犯罪率との関連が示されてきた一〇個の変数が用いられている。分析の結果は興味深いものであり、これらの変数は大都市部では犯罪の五四・〇%を説明していたのに対して、地方部における犯罪の説明率は二三・八%にとどまっていた。こうした地方・都市差に関する知見は以後の地方犯罪学の研究でも繰り返し示されている。
本書の要約
原著者のドナーマイヤーとデケセレディはこうした地方犯罪学の発展に貢献してきた立役者であり、たとえば本文中でも繰り返し引用されている『国際地方犯罪学』誌の創刊に尽力した。また、原著が二〇一四年に出版されたあと、当時の地方犯罪学の知見をまとめたハンドブック(Donnermeyer, 2016)や事典(Harkness et al., 2023)が出版されているが、ドナーマイヤーはこれらの書籍でも編集者を務めている。
本書は原著で一九二頁の短い本でありながら、出版時二〇一四年までの研究を手際よくまとめており、地方犯罪学の分野では広く読まれ、引用される本となっている。本書全体を通底するライトモチーフは、従来の犯罪学において「都市」が過度に重視され、「地方」が軽視されてきたことへの批判、そしてこうした現状を乗り越え、「地方犯罪学」という新たな学問分野を立ち上げることが必要であるという主張であると思われる(一二―一四頁など)。
第1章では、まさにこうした都市中心の犯罪学によって地方犯罪が軽視されてきたことが指摘され、従来の犯罪学に見られる「地方に関する四つの神話」が実際のデータに適合しないことが指摘される(一九―五〇頁)。四つの神話とは、⑴地方と都市の二元論、⑵集合的効力感=低犯罪、社会解体=高犯罪、⑶地方犯罪率は歴史的に見て低く、いまになって増加している、⑷ジキルとハイドのような両極端の地方イメージであるが、端的にまとめると、⑴地方が都市よりも安全である、⑵地方はどこも牧歌的で同質的であるという二つの想定が批判されている。こうした主張を支えるデータとして、たとえばアメリカやカナダの地方では都市よりも高い犯罪率が観察される場所があること、ドメスティック・バイオレンス(DV)のような犯罪については、地方の凝集性の高さがむしろそうした犯罪の発生を促進することなどが指摘されている。
第2章では、批判的犯罪学の視点が導入され、地方犯罪研究における批判的視座の有用性が強調される。なお、ここで批判的犯罪学によって批判されている対象は、社会構造等を無視し、「犯罪は個人特性の結果である」と考える「主流派犯罪学」である(一五頁)。これに対して著者は、左派リアリズム研究やフェミニズム研究の視点を導入しつつ、地方における構造的な社会・経済・政治的条件や、それらに起因する格差を、犯罪を理解するうえで重要な背景として位置づけている。
第3章でも引き続き批判的犯罪学という視座の重要性が論じられる。ただし前章とは異なり、本章においてはより具体的なテーマを批判的犯罪学の視点から読み替える試みがなされている。取り上げられる主なテーマは、⑴コミュニティと地方犯罪、⑵ドラッグ犯罪、⑶農業犯罪の三つである。⑴については、主流派犯罪学においては犯罪を抑止するとされる集合的効力感が、実際には犯罪を抑止するどころか、とくにDVにつながるような男尊女卑的な文化の再生産に寄与することが論じられる。⑵については、アパラチア炭鉱地域におけるオキシコンティン依存など、地域経済と産業構造が薬物犯罪に直結するという社会構造に着目した議論が展開される。⑶については、盗品(農作物や家畜、機械や設備など)の取引はグローバルな市場で行われることが示され、地方での窃盗というローカルな犯罪は社会的不平等や世界経済を前提としたグローバルな動きの中に取り込まれていることが指摘される。
最終章である第4章では、地方犯罪学から導かれる今後の研究テーマと政策・実践への示唆が論じられる。前者の研究テーマについては、環境犯罪や地方における警察活動に関する理論的構築が求められていることが指摘される。後者の政策・実践への示唆については、とくにアメリカの文脈を念頭に置きつつ、銃規制の強化が必要であることがまず論じられる。さらに、女性に対する暴力を減少させるためには女性の自立の助けとなる職業訓練や良質な雇用の提供が重要であること、そしてそれにもまして男性の側の変容が必要であることが指摘される。くわえて、第二世代の「環境設計を通じた犯罪予防」やポルノグラフィー、先住民族、権力者の犯罪に関する取り組みの重要性が論じられる。
(以下、続く)
版元から一言
牧歌的で神秘的、私たちは地方に対してそうしたイメージをもちがちです。地方は都市に比べて犯罪が少ないのでしょうか? さまざまな研究や知見から、地方に特有の犯罪があることが見えてきました。本書ではとくに女性に対する虐待や暴力,地方コミュニティと犯罪,ドラッグ犯罪,農業犯罪について詳しく論じられています。日本社会への示唆に富む一冊です。
上記内容は本書刊行時のものです。



