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フリチョフ・ナンセン 新垣 修(著) - 太郎次郎社エディタス
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フリチョフ・ナンセン (フリチョフナンセン) 極北探検家から「難民の父」へ (キョクホクタンケンカカラナンミンノチチヘ)

歴史・地理
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四六判
縦194mm 横132mm 厚さ26mm
重さ 425g
320ページ
上製
定価 2,400円+税
ISBN
978-4-8118-0853-6   COPY
ISBN 13
9784811808536   COPY
ISBN 10h
4-8118-0853-3   COPY
ISBN 10
4811808533   COPY
出版者記号
8118   COPY
Cコード
C0023  
0:一般 0:単行本 23:伝記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2022年12月10日
書店発売日
登録日
2022年10月25日
最終更新日
2022年11月16日
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紹介

冒険の精神で時代の闇に
道を拓いた巨人

フラム号で極北に挑んだノルウェーの科学者は、やがて
初代「難民高等弁務官」として、闇の中で輝く光となる。
第一次世界大戦後の混乱のなか、42万人超の戦争捕虜を救いだし、
難民・無国籍者のためにナンセン・パスポートを発行。
革命後のロシア=ソ連と他国との関係改善のために奔走し、
ウクライナで飢餓に苦しむ人びとを支援する。
稀代の探検家にしてノーベル平和賞受賞者ナンセンとは、
いったい、いかなる人物だったのか。
未踏の道を歩みつづけたその生涯をひもとく初の和書評伝!

戦争、難民、食糧危機──
いまだ漂流しつづける人類への伝言。

目次

はしがき

第1章 人生の出航
ノルウェー/ナンセンの母と父/大自然に育まれた少年/人生初の大ジャンプ/ウィンタースポーツの達人/大学へ──動物学を専攻する/ようこそ、氷の世界へ/グリーンランドに心奪われて

第2章 グリーンランド横断
おきて破りの逆ルート/出発と足止め/流氷上の綱渡り/上陸から横断へ──氷床の崖登り/イヌイットと過ごした日々/凱旋帰国/エヴァとの結婚

第3章 前へ! 極北へ
不思議な漂流物/ナンセンの計画──あえて「漂流」する/フラム号誕生から出発まで/氷上の巣ごもり/下船からのアタック/最北の地、さらに1000キロ/思いがけない再会/栄光の帰国

第4章 学者として
内なる主君「無責任」のひらめき/地質学の美/ベルゲンでの第一歩/博士論文「中枢神経系の組織学的要素の構造と組み合わせ」/創始ニューロン説/科学と絵画──観察し、創造する/黎明期の海洋学へ/「洋上の研究室」フラム号/科学器具の発明/エクマンへの継承/学者でありつづけたい

第5章 外交官として
ノルウェー独立に向けて/「進め、前へ! 自由なノルウェーへ」/在英国ノルウェー大使となる/シベリアへの旅/飢餓におびえる中立国ノルウェー/第一次世界大戦/国際連盟──「新しい船」の理想と現実/食糧=武器──米国の思惑/国際連盟とナンセン

第6章 捕虜の帰還
絶望の淵にとり残された人びと/捕虜帰還をはばむ国際情勢/フィリップ・ノエル=ベーカー/国際連盟の決断/クリスチャニアでの会談/ナンセン捕虜帰還高等弁務官の誕生/逆境を越えて/大流に乗る人道支援

第7章 ロシア飢饉
ロシア=ソ連を襲う飢饉と飢餓/マクシム・ゴーリキーからの電報/米国の動き/市民社会組織の動き/ナンセンの決断/「飢饉よりも大きな脅威は共産主義」/数千万人を見殺しにできるのか/民衆に訴える/大流に抗う/老いゆくナンセン

第8章 難民支援
パリのタクシードライバー/国家に「抱かれなかった」人びと/国際難民制度の産声/背に腹はかえられぬ国際協力/ナンセン難民高等弁務官の苦境/難民支援のネットワークづくり/身体、魂、パスポート/ナンセン・パスポートの発明/周到な工夫/難民の範囲を拡げる/雇用・就労という新たな課題/教育の重要性/保護と自主帰還/アルメニア──虐殺と迫害/報われなかった努力への敬意/「難民の父」が去ったあとの世界

第9章 住民交換
ナンセンは正義か?/ギリシャ=トルコ戦争/追いたてられる人びと/90万人の窮状と国際支援/計画の始まり/急かすギリシャ、かわすトルコ/ローザンヌ会議/ギリシャ・トルコ協定の締結/安全と平和の促進か、民族浄化への加担か/ナンセンはなぜ関与したのか

第10章 前へ! 平和へ
ロシア軍による2022年ウクライナ侵攻/『ロシアと平和』を著す/人道支援と国際政治/難民支援の位置/「慈善はレアルポリティーク(現実政治)である」/ノーベル平和賞/ナンセン平和観の両義性──解放か、排除か/ナンセン平和観の普遍性──冒険の精神

第11章 永遠への出航
ナンセン邸・ポルホグダ/私人としてのナンセン/「リベラルアーツ人」ナンセン/生き方の流儀──「知の翼」を拡げて/最後の出航/翼を切りとることなかれ

あとがき
年表・チャート
参考文献・資料

前書きなど

はしがき


 2019年12月にジュネーブで開催された国連機関主催の会議に参加した私は、クリスマスまえのシーズンをノルウェーで過ごすことにした。オスロ中央駅前からノルウェー王宮に連なるカール・ヨハン通りは、プレゼントを熱心に選ぶ家族、なにやら楽しそうに笑う若者たち、年末休暇を楽しむ観光客、肩を寄せあうカップルなどでにぎわっていた。街全体が軽やかなメロディでも奏でるかのように。
 オスロ中央駅前から車で30分ほど西に進むと、ルイサキという郊外にたどり着く。大通りで車を降り、にぎやかなオスロ中心街とは対照的に、静けさに包まれたゆるやかな勾配の小径を歩み進む。やがて道が静かにひらいた。薄い雪のシルクをまとった広場の上に、青い屋根の帽子をのせたレンガ造りの館がたたずんでいる。言われなければ、あるいは知らなければ、そこが「ある研究所」だと気づくことはないだろう。
 チャイムを鳴らすと、研究所の職員が玄関を開け、私を招き入れてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。迷わなかったかしら? どうぞ中へ」
 まずはたがいに、簡単に自己紹介。彼女の名はヒルダさん。エントランスの奥には、大きなクリスマスツリーが飾られていた。そのそばにいた男性が近づき、話しかけてきた。彼はアイヴァー・ノイマン博士。ノルウェー外交やロシア外交を専門とする国際政治学者であり、ここの所長である。多忙なクリスマス・シーズンに、直前の連絡にもかかわらず面会と見学を快諾してくれたことへの謝意を伝えると、ノイマン博士は笑顔で応えた。
「あなたはラッキーです。じつは今日が仕事納めなのです。明日からこの研究所は年末年始の休館に入るんですよ」
 あいさつを和やかに交わしたあと、ヒルダさんがさっそく研究所の中を案内してくれた。調査研究施設というより、人の生活の気配が漂う屋敷に思えたのは当然だったのかもしれない。そこはもともと、「彼」とその家族の住処だったのだから。現在、この建物内の多くの「部屋」は研究室や会議室、文庫室として使われているが、「彼」にまつわる貴重な品々がそこかしこに展示されている。「彼」が仕事で使った机と椅子、「彼」が残した書籍、「彼」が描いた画、「彼」が愛用したスキー用品、「彼」が作製した科学器具、「彼」が発明した調査の道具、「彼」の名声をたたえる勲章や賞状の数々。これらは、「彼」が科学や外交、人道支援などの分野に深く関与し貢献した証である。
 その「彼」とは、フリチョフ・ナンセン(Fridtjof Nansen)。そして私が訪れたのは「フリチョフ・ナンセン研究所」である。研究所に置かれた品々が多彩であるように、第一次世界大戦前後を生きたナンセンの人生もまた多彩である。
 1888年に理系分野で博士号を取った直後、グリーンランドの横断に旅立ち、これを成功させる(26歳)。
 1895年には、北極点に人類としてもっとも近づく記録を打ち立てた(33歳)。
 1905年から数年間は母国・ノルウェーの独立に尽力し、在英国ノルウェー大使となる(44歳~46歳)。
 1917年~1918年には、食糧危機に直面する母国のため、使節団団長として米国と食糧供給について交渉した(55歳~56歳)。
 国際連盟ノルウェー代表となった1920年、捕虜帰還高等弁務官となった(58歳)。翌年には、ロシア難民高等弁務官とロシア飢饉救済事業高等弁務官に就任(59歳)。
 1922年、トルコ・ギリシャ住民交換の交渉者となる。そしてその年、ノーベル平和賞を受賞している(61歳)。
 無双の経歴と無類の実績への喝采は、21世紀に生きるわれわれの耳にも届くほど長く続いている。長身でナチュラルな筋肉。彫像のような表情に鋭い眼光をたたえ、怜悧な口もとには意思の強さが宿る。強靭、無骨で頑固な男。独立を願う母国の人びとを、極北探検の成功でふるいたたせた英雄。数えきれないほどの戦争捕虜や飢餓に苦しむ人びと、難民の命を救った巨人。その一方、素食を好み、身にまとうのはいつも同じ着古しのジャケット。現地調査に向かう列車では三等車しか使わない。人道支援活動では給与をいっさい受けとらないどころか、私財すら投じた。
 ひとたび目標を立てたら丹念に計画し、前進をはばむ壁があればそれを突き崩してでも達成をあきらめない人。人並はずれた能力を武器に、ときには無謀とも思える押しの一手で成功を手中におさめる。「威風堂々」という言葉がよく似合い、その姿勢はどこまでもポジティブだ。「困難」と「不可能」の定義の違いについて聞かれ、こう答えた。
「困難とは、ほとんど時間をかけずに何かをなしとげられることである。不可能とは、解決までに少しばかり時間がかかることである」
 情熱と才能、野望の一体化。ナンセンは、そんな印象で伝えられたり、あるいは語られたりする。
 だが、年齢と経験を重ねるにつれ、彼のある内面が色濃く表出するようになった。それは、何かに抗うだけではなく、自然の流れを受け入れ、むしろその流れに助けてもらうという姿勢である。それは、大海原の大流に身をまかせ、あたかも「漂流」しながら目標地点に達するような生き方だった。
 同時に、知的好奇心や個人的野心に根ざした彼の関心は、なにひとつ希望を見出せない人びとの救済と、世界平和を実現するための挑戦へと移っていった。自力ではどうにもならない閉塞的状況におかれた人びとのことを知ると、当時の世界システムや国際政治の大流にみずからを巧みにゆだねながら、彼はだれにもまねできない独創的な手法で打開を試みた。闇の中で輝く光となり、闇に打ち勝とうとした。
 世界はいま、歴史の岐路に立つ。ポスト・コロナといわれる時代の先に待つのは、反グローバル主義と極端な自国ファースト主義なのか。これまでの国際体制は、「中国対その他の大国」という構図に変化するのか。ウクライナ危機を契機に、国際秩序はどう書き換えられるのか。
 急速に変化する世界とその課題に直面していると感じるいまこそ、極北探検家から「難民の父」と呼ばれるようになった彼の言葉を聞き、彼の行動を知るときである。新たな時代を生きぬく道標とインスピレーションを、彼から受けとるべきである。本書は、ノスタルジックな人物伝でも、ヒーロー礼讃の偉人伝でもない。フリチョフ・ナンセンという人間──私たちと同じひとりの人間──が進んだ人生航路をたどり、21世紀のいま、彼から受けとるべき伝言を拾い集める旅である。(後略)

著者プロフィール

新垣 修  (アラカキ オサム)  (

沖縄出身。国際基督教大学(ICU)教養学部教授
PhD in Law (Victoria University of Wellington)
国連難民高等弁務官事務所法務官補、国際協力事業団(現・国際協力機構)ジュニア専門員、ハーバード大学ロースクール客員フェロー、東京大学大学院総合文化研究科客員准教授、広島市立大学教授などを経て現職
主著
『時を漂う感染症──国際法とグローバル・イシューの系譜』慶應義塾大学出版会、単著、2021年
The Oxford Handbook of International Refugee Law (chapter contribution/co-author, Oxford University Press, 2021)
The UNHCR and the Supervision of International Refugee Law (chapter contribution, Cambridge University Press, 2013)
Refugee Law and Practice in Japan(single author, Ashgate Publishing, 2008)

上記内容は本書刊行時のものです。