書店と版元-「本」は動く
雨がやまない日々が続いています。
はじめまして、4月から彩流社で仕事をしております新井晶子と申します。
サッパリとしない時期に、まだまだ「出版業界」の大原則すらもサッパリ分かっていない勉強中の身のわたしがこちらで「出版」に関わることを書かせていただくのはたいへん厚かましいことだと思っておりますが、ご挨拶も兼ねまして、3ヶ月という短い時間のなかで、愚にも付かないことだと承知しつつもわたし自身が書店回りをしながら、立ち止まらざるをえなかったことを申しあげたいと思います。
「営業」と言えるには及ばず、わたしには書店員の経験も、これまで書店へ営業するといった経験もありません。上長に出版社で働くにあたって必要なキーワードが載った本を渡され、事が行われてから、または行ってから、「ああこれはこういいことか…!」とその都度理解していくことの反復で毎日を過ごしています。
書店さんへの営業に関しては、いままで「本」を買いに行くだけだった立場から一転、「本」を売りに行く立場からどう「書店」という場所と存在を見たらよいのか、そういう意識で一回一回緊張しながら書店回りをしている、まだまだそういう水準の迷いのなかにいます。
当然のことなのですが、営業という役割を担っていると、勤めている版元以外の方々とお会いする機会が多く、書店で働かれているひとたちとお会いしてはなしをすることがわたしにとっては日々の最大の出来事のひとつになります。数えられないほど書店に訪問した、そういう経験から言えることではありませんが、この3ヶ月間でその場所にある一軒一軒の書店を訪ねてみて、自然と感じたことがありました。最初に「立ち止まらざるをえなかったこと」と書きましたが、それはなんなのかを、小さな、すぐに忘れてしまいそうな取り留めのないことなのですが、今後忘れてしまわないためにもここに書き留めておきたいと思いました。
つい先日、ある書店さんにお伺いして思い切ってわたしの関心事をはなしてみたことがあります。幸いなことに、その会話がその書店内のさまざまな本へと向けられ、わたしが案内しに行った「新刊」以外の弊社の刊行物のことをはなしたり、「棚」に並んでいる本について教えていただいたりした経験がありました。その際にある著者の名前を出したのですが、そうすると「この著者はお客さんから教えてもらいました」とその書店の方はおっしゃいました。その日は、そういう人とひとの交流がありえるのか、とその言葉を訊いたことが忘れられない、という心境になりました。その著者の本は数冊(すべて見ていませんが…)その書店に置かれているのですが、この一言だけでその書店に置かれている「本」の姿が動きを伴って見えてくる…ように思われました。書店員の仕事がどういうものか全然分かっていないので驚くのだ、と言われればそうなのですが…。
もうひとつあります。新潟のある書店さんにお邪魔したときのことです。わたしにとっても既知のことだったのですが、改めて「ああ、そうか。」と思わざるをえなかったことがありました。わたしがこれまで営業へ行ったお店には中東地域及びイスラーム関係の本が平積みにされています。その書店員の方はそれをきちんと言葉にして、このお店にはイスラーム、中東の棚が出来ました、これからも本が作られるから、とわたしに教えてくださいました。わたくし事ですが個人的な関心で「パレスチナ問題」について時間を費やして考えていた時期があり、最近のニュース報道で伝えられえる出来事に関しては、正直なところ耳と目を塞いでしまっていましたが、出版活動を通してこのリアルな事実と向き合うにはいったいどうしたらいいのだろうか、と唸るしかありませんでした。
以上、すくない経験ですが、わたしにとっては書店さんが(ご多忙ななかでも)どういうふうに「一冊の本」と関わっているのか、について知る機会だった、そういう機会に恵まれた、と思えます。そして版元から生まれる(た)「一冊の本」にすくなからず関連することではないだろうかと思います。取るに足らないことかもしれませんが、こういう機会を掬いだして、意識的に勉強していきたいと思っています。
彩流社の刊行書籍をまだすべて把握できていませんが、彩流社の既刊本を発掘しながら、新たな本も持って、その「本」が生きいきするような出版活動がしたいと思っています。
抽象的なはなしとなり不体裁で申し訳ございません。「いやいやあなたは何も見えていないよ」と、これからご指導、ご鞭撻のほど、なにとぞよろしくお願い申しあげます。
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