一年経って
昨年秋に会員となり、はやくも一年が経ちました。東京国際ブックフェアへの出展をはじめ、日々の情報交換などさまざまな形で版元ドットコムにはお世話になっております。
弊社は夏ごろはやや沈黙気味だったのですが、ここへ来て年内はちょっとしたリリースラッシュを迎え、にわかにあわただしくなってきました。
まずは10月刊行の『未来のダンスを開発する』。こちらは昨年末に刊行された『「批評」とは何か?』『散文世界の散漫な散策』に続く「ブレインズ叢書」の第三弾となります。ダンス批評家の木村覚さん初の単著であり、ダンスや舞踏にとどまらず演劇、音楽、ゲーム等々の身体表現の数々を「フィジカル・アート」としてまとめ、そこに通底する問題系を「イリュージョン/プロセス」「タスク」「ゲーム」「死体」「観客」という5つのキーワードで論じた意欲的かつ野心的な一冊です。おそらく、今後「身体表現」について考える上で、避けては通れない本となったのではないかと思います。
続いて11月早々に刊行するのは弊社得意の分厚い音楽書ミック・ファレン著『アナキストに煙草を』。ガレージサイケバンド、デヴィアンツのシンガーとしてサイケファンにはおなじみの著者による自伝的な本。ブライトンでモッズとロッカーズの抗争を見物したり、ロックバンドを率いたボブ・ディランがブーイングを浴びる様やジミヘンのロンドン上陸を目撃したり、アングラ新聞の編集者として裁判で当局と戦ったり、ロンドン・サイケ・シーンの勃興に立ち会ったり、フリーロックフェスを開催してMC5を招聘したりと、60年代カウンター・カルチャー風雲録といっていいような本です。『ローリング・ストーン風雲録』なんかが好きな人にもオススメかと。
11月にはもう一冊新刊を予定、オーストラリアで刊行されて世界各国でベストセラーとなった絵本『I Had a Black Dog』の邦訳『ぼくのなかの黒い犬』。欧米ではいわゆる「気うつ」のことを黒い犬にたとえるようなのですが、本書はそうした「黒い犬」と共に生きるつきあい方を寓話的に描いたもの。最近眠れない、なんとなくやる気がおきない、といった方に一度手にとってみていただいたい一冊です。年内には続編の刊行も予定しております。
という感じで弊社としては今年は年間12冊、月1冊ペースでの刊行を目標としておりましたが結果として現時点ではこれまで刊行した『ブラック・メタルの血塗られた歴史』『東京立ち飲み案内』『ゴールデン・メモリーズ・オブ・ロック』『僕とうつとの調子っぱずれな二年間』と合わせて8冊に留まりました。弊社の年間刊行点数としては過去最多ではあるものの、まだまだ理想には遠い状態です。
一方で、版元ドットコムのサイトをご覧になるような方なら既にご存知かと思いますが、今年は大きな版元の倒産や吸収合併、老舗雑誌の休刊など、さまざまな形で出版の世界に変化が訪れています。そしてiPhoneのブレイクとKindleの発売は、おそらく今後大きな意味を持ってくるのではないでしょうか。最近でもポット出版さんのサイトに掲載されている永江朗さんと沢辺さんの対談や仲俣暁生さんが編集長をつとめるウェブマガジン「マガジン航」など、刺激的な議論が展開されています。
来年以降どういった展開を見せていくのか、今の時点ではまったく予想もできませんが、小規模でやっていることを強みとしてフットワークを軽く、往年の広島カープばりの機動力を見せていきたいところです。