創業3年目の春@吉祥寺
吉祥寺駅北口から徒歩10分ほどの住宅街に築30年の一軒家を借り、4月に発売した『証言!日本のロック70’s』を入稿した翌日に引っ越しを敢行(アリさんマークの引越社、お薦めです)、2階に事務所をオープンしてそろそろ2ヶ月が経ちます。通常の業務と並行しての引っ越し&片付け&環境整備は大変でしたが、手こずった無線LANもなんとかつながり、ようやく日常のペースを取り戻しつつあるところです。吉祥寺はとにかく便利で快適この上ないのですが、独立した事務所を持ったことでお客様を迎えるスペースができたのも嬉しいことのひとつです。印刷所の担当さん、編集者、音楽家、評論家、研究者といろいろな方にすでにおいでいただいています。
幸い『証言!日本のロック70’s』も出足好調で、創業3年目の春を新しい環境で気持ちよく迎えることができました。ここまでの2年間は、トータルの返品率がおよそ10%という、思いがけないほどの好結果が出ています。サントリー学芸賞をいただくという幸運に恵まれたりはしましたが、大ベストセラーがあるわけではありませんし、特別な販促活動はなにもしていない(できない)のですが、その数字の大きな理由として思い当たるのが、流通のシステムです。
弊社は太洋社さんとJRCさん以外の取次各社とは口座を持たず、そのぶん音楽書・楽譜専門の卸し会社さんを頼りにしています。そのため新刊の自動配本は事実上おこなっていません。新刊の発売時も担当の方からご注文をいただいて初めて出荷しているケースがほとんどです。ということは、お店の方の目にとまらないとスルーされてしまうことにもなり、本を置いていただきたいお店からいかに確実にご注文いただくかが営業面の課題のひとつとなってはいますが、アルテスの本を「置こう/売ろう」と思ってくださるお店やスタッフの方々にお世話になるという今のやり方を、当面このまま続けていこうと思っています。
先だって東京・西荻窪の「旅の本屋 のまど」というお店を訪ねました。お話を伺うと、基本はすべて出版社との直取引で、店長さんがお一人ですべての本を1冊ずつ判断して仕入れてらっしゃるとのこと。専門性の高い書店だからこそできること、とは思いますが、CDショップでもそれに近い仕入れが当たり前に行なわれているのを見るにつけても、「仕入れた商品は責任をもって売(り切)る」ということが、昨今ことさら「責任販売制」と名付けられ話題になっていることは、とても不思議に感じられます。
そうした日常直面する諸問題と同時に、Googleのブック検索問題などをはじめとするネット環境の激変により、ぼくらのような小さな会社でも、否応なしに「出版」という概念の更新を迫られています。そんななか、小林弘人さんの『新世紀メディア論』、仲俣暁生さんや内沼晋太郎さんのブログなどでは、「出版」を広義にとらえた前向きの議論が展開されていて、あれこれ考えさせられると同時に、刺激を受け、また励まされもしています。フルタイムのスタッフが4人という規模でやれることは限られていますが、あくまで書籍を本業として大事にしつつ、ウェブサイトの展開、メール・マガジンの発行、トーク・イヴェントの開催などなど、面白そうなことにはどんどんトライして、活動の場=メディアを広げていきたいと考えています。
これからも「音楽を愛する人のための出版社」、アルテスパブリッシングをどうぞよろしくお願いいたします。