地方出版(創風社出版)はなぜやっていけるか
「あの店はなぜつぶれない」というテレビ番組を見た。パッとしない店構え、いつ通りかかっても客が入っている様子はなく、店員さえいなくて、営業してるんだかしてないんだか…。でも、なぜか何十年もまえからその場所にあってつぶれない。その秘密は?と、東海林のり子レポーターが突撃インタビューを試みる、というものである。内幕を尋ねてみれば、どの店もつぶれないなりの理由をいくつか持っていて、なるほど、と納得させられる。
ふと、思った。さしずめウチなども、「なぜつぶれない?」と不思議がられているのだろうな…。
愛媛で出版を始めて22年、資本ナシ・経験ナシ・地盤ナシの出発から、「ろくに営業しない」とか「採算があうとは思えない本づくり」とか言われつつも、営々と本を作り続けている。しかし、番組登場の店舗同様、ウチにも、「つぶれない理由」というものはある。東海林さんが来ないうちに、二、三、明かしてしまおう。
その1 「職住一所」 つまり、店舗付き住宅の一階が事務所、二階が住居である。
そんなことが第一の理由?と思われるかも知れないが、侮るなかれ、通勤時間30秒のメリットは大きい。24時間しかない一日を、通勤時間分有効活用できるのである。とりわけ子育て期など、この恩恵なくしては乗り切れなかったことだろう。
その2 「家内労働」 つまり、働いているのは私と妻と妹(忙しい時に手伝ってくれていたのが常勤になった)のみである。究極の人件費節約というわけだが、このことによりもたらされる精神的メリットは大きい。人一人の給料を稼ぎ出すというのは、大変なことである。その責任たるや大。あまり経営戦略などに消耗することなく、仕事を選び、時には採算を度外視した冒険もできたのは、その結果を引き受けるのが自分たちだけだったからかもしれない。実際、もうからなかったら自分たちが我慢すればいいだけ、と思うことで続けられた時期もあるし、今も、その気持ちである。
その3 「究極の経費削減……自分でなんとかする」 つまり、予算の都合などで外注できないときは、自分でする。さすがに、自分で印刷機を回すことは数年でやめたが、今でも、版下作成や装幀など、内部でこなすことが多い。単に経費がかからない、というだけじゃなく、結局、本作りのこうした部分が好きなのだろう、必要とあらば、カメラも持つし、オブジェも作る。
……といったところが、つぶれないでやってきた理由であろう。
長年の間には、「人を増やさなければ」、「会社組織にしなくては」、などの岐路も何度かあった。これからもあるだろう。この先、どんな道を選ぶことになるかはわからないが、これまでのところは、いわば「職人一家」とでもいうべき労働形態で、自営業のままやっている。その分、行き届かないことも多いのだが、岐路の都度、「大きくなる」ことよりも、「続けていける」ことを選んできた結果だろうと思っている。
しかし……ここまで書いてきて、あらためて思うのだが、ウチのような形の出版社は結構多いのではないだろうか? いや、多いに違いない、と思うのだが、どうなのだろうか…。